トキが舞い降りる酒米の田んぼ

NOBUとの関係からは、北雪の企業姿勢がよく伝わってくる。酒造りにおいても、人間同士の交流を大切にし、佐渡の酒蔵であることに強いこだわりを持っている。

カップ酒220円の普通酒から、1本2万円の大吟醸まで、多彩なラインアップがそろう

「佐渡は水や気候がすごく良いのです。それに何より人間が良い。佐渡の人々は気質が穏やかで、何かをする時には団結して行います。そのハーモニーを重んじる文化は、ものづくりにおいて強みとなるのです」(中川さん)

チームワークの良さは、村落単位で伝承される鬼太鼓(おんでこ)などの郷土芸能が盛んなことにもよく表れている。都会では失われつつある地域コミュニティーが、しっかりと根付いているのだ。北雪では契約農家と密接に連携し、トキが舞い降りる田んぼで新潟の清酒米の代表格「越淡麗」や「五百万石」を育てている。

岩首の棚田に実る稲穂

筑前さんは、「うちのお酒はトキが品質を保証してくれているんです」と誇らしげに言う。佐渡島のトキは、一時絶滅の危機にひんしたが、その一因は農薬とされている。現在は300羽ほどが野生で繁殖しているが、そのトキは農薬や化学肥料を多用した田んぼには飛来しないという。

日本の特別天然記念物に指定されるトキ 写真:佐渡観光フォト(さど観光ナビ)

貯蔵方法にも佐渡島ならではの歴史やノウハウがある。一昔前は、佐渡金山の坑道跡を貯蔵庫として利用していた。坑道内は酒を劣化させる紫外線が当たらず、気温も年間を通して10度前後に保たれるのだ。現在も、坑道内でねかした米焼酎『金雪きらら 佐渡金山坑道貯蔵』が商品化されている。

現在の貯蔵庫では、酒瓶に超音波を当てたり、音楽を聴かせたりしている。どちらも振動を与えてアルコール分と水を混ぜ合わせることで、熟成を早め、味をまろやかにするのが目的。近年になって科学的に効果が証明された手法だが、佐渡では北前船の時代から「船で揺られた酒は味がまろやかになる」と言われていた。そうした伝承をもとに、最新の技術を積極的に採用したのだ。

貯蔵庫の中で超音波振動によって熟成中の日本酒

高級店の酒が気軽に安価で楽しめる

離島の酒蔵であるということは、資材の調達や輸送コスト面など、さまざまなハンディを負う。しかし、北雪はそのハンディを逆に個性と捉えて酒造りに励んだ。

もちろん新しい試みも忘れない。近年、しぼりに遠心分離機を導入したことで、よりフルーティーな吟醸香や味のふくらみが実現した。さらに新しい味を求めて、佐渡米以外での酒造りにも挑戦し始めている。兵庫県産の酒造好適米「山田錦」を35%まで磨き上げ、長期低温発酵させる「YK35」シリーズを開発。数々の日本酒品評会でグランプリに輝いた。まるでNOBUの成長と歩みをそろえるように、北雪の酒も進化を続けている。

筑前さんが醸造タンクや貯蔵庫にも案内してくれた

海外では一つの高級レストランでしか味わえない「北雪」だが、日本では気軽に安価で楽しむことができる。特に新潟県では庶民の酒として親しまれ、大衆居酒屋などにも置かれていることが多い。佐渡の本店では、さまざまな種類を無料で試飲できる。世界に羽ばたく日本酒を飲みに、ぜひ一度訪れてみてほしい。

北雪酒造

  • 住所:新潟県佐渡市徳和2377番地2
  • 営業時間:午前8時~午後5時まで
  • TEL:0259-87-3105

取材・文=青木 康洋 写真=三輪 憲亮

(*1) ^ くらびと。杜氏(とうじ)の指導のもと、酒造りにたずさわる職人