5 「3・11」以降の新たな困難と財源に魔法はない

復旧・復興には100兆円も

3月11日以降、大震災、津波、原発事故の3つの困難が日本経済を襲っている。内閣府は前者2つの要因による直接的な被害額を25兆円程度と推計した。しかし、これは過小評価である。ストックとしての設備の喪失額が25兆円であるとしても、今後数年間にわたって失われると思われるGDPは大規模な数字になる。復旧と復興のための財政支出は今後10年間程度にわたり毎年10兆円程度と見込まれる。原発事故の被害補償、東電の債務保証などが国の財政負担となれば、財政状況の悪化はさらに深刻になる。

財源については、次の3つの選択肢がある。(1)既存経費の配分見直し、(2)増税、(3)国債の増発、であるが、いずれも難しい。第1次補正予算では4兆円強の予算規模のうち2兆5千億円程度を基礎年金財源の転用によって賄った。これは、一時しのぎである。基礎年金の財源を年金以外の目的に使用することは、国の資産を食い潰すことであり、将来世代の負担を増大させたことと同じである。

最近盛んになっている議論は、1兆ドルになっている外貨準備を取り崩して財源を確保すべきというものだ。一見もっともらしい。しかし、外貨準備を積み上げるためには短期国債を発行して資金調達されたことを考慮すべきである。外貨資産(米国債など)を売却する場合には、その調達に使用した国債を償還することが先決である。外貨準備は決して埋蔵金ではない。基礎年金基金の流用や外貨準備の売却は、国債発行による財源確保に比べて、負担がないままに魔法の杖によって財源を賄うことができるという幻想を国民に与えかねない。

自助努力欠如なら国際機関の介入も

OECDは2011年4月の対日審査報告で、「財政目標の達成のためには、税収の増加が必要になる。……追加的な歳入としては主に消費税に頼りつつ、直接税の課税ベースの拡大や労働参加を促進するといった包括的な税制改革を通じて歳入は増加されるべきである。基礎的財政収支を均衡させるためには、消費税率は現行の5%から、5~9パーセントポイント程度引き上げられなければならないであろう」と指摘した。(*9)

さらにIMF(国際通貨基金)のスタッフは6月16日に日本に対する提言として、「消費税を向こう数年で現行の5%から15%へ段階的に引き上げる措置によって、今後数年以内に公的債務の対GDP比率を低下軌道に乗せるために必要な財源の約半分が賄われる」と指摘した。(*10)

OECDやIMFから指摘される前に、国の社会保障制度の持続性と負担と便益のあり方について国民に問題を提起し、理解を求めるという堂々とした議論を政治がリードできなければ、根本問題をますます先送りすることになる。国内の政治力に期待できないとなれば、IMFなどの国際機関の強力な指導を受けることも可能性の中に入る。日本国民は真剣に日本の社会の持続性を考えるべきである。

(2011年6月記)

(*1) ^ 財務省ウェブサイト「日本の財政を考える」

(*2) ^ 閣議決定「財政運営戦略」、2010年6月22日

(*3) ^ 内閣府『平成22年度 年次経済財政報告書(経済財政白書)』、2010年7月

(*4) ^ 財務省主計局 「我が国の財政事情(平成23年度予算政府案)」p.12
OECD Economic Outlook, no. 88 (December 2010), annex table 32.

(*5) ^ 財務省ウェブサイト「OECD諸国の国民負担率(対国民所得比)」

(*6) ^ 内閣府「経済財政の中長期試算」、2011年1月21日

(*7) ^ 政府・与党社会保障改革検討本部「社会保障・税一体改革成案」、2011年6月30日

(*8) ^ 財務省ウェブサイト「日本の財政を考える」

(*9) ^ 『OECD対日審査報告書2011年版:概観』、2011年4月、p.11、
OECD Economic Surveys, Japan: Overview, April 2011, p. 11df

(*10) ^ IMFスタッフディスカッションノート「日本における消費税引上げ: なぜ、いつ、どのように行うか」、2011年6月16日、
IMF Staff Discussion Note: “Raising the Consumption Tax in Japan: Why, When, How?” June 16, 2011, p. 3