共感が生まれる時、懸け橋は築かれる
川嶋は高校2年生の時に芦屋で阪神・淡路大震災を経験している。幸い家族は無事だったが、一瞬にして全ての生活が一変する様を目の当たりにした。2011年に東日本大震災が起こった時、多くの台湾の人々が日本の復興を支援してくれたことは、素直にありがたいと思った。これを契機に、台湾に関心を持つ日本人が増えた。18年の夏休みに最も人気の高かった日本人の海外渡航先は、初めてハワイを抜いて台湾となった(日本旅行業協会調べ)。しかし、川嶋はこうした昨今の現象をやや冷めた目で見つめている。
「きっかけが台湾であることは良いことです。でも、自分は台湾を大切に思うからこそ、日本人にとっての台湾が一時的なブームで終わってほしくないとも思うのです」
では、地に足の着いた日本と台湾の関係を築くにはどうすれば良いのだろう。彼は自分の持ち場であるバーという空間を引き合いに出しつつ、こう語ってくれた。
「例えば、ドリンクはきっかけで、会話はおつまみなんです。最も大切なのは、カウンター越しにお客さんと店が対等な関係で向き合った時に生まれる『共感』なのです」
幅65センチのバーカウンターの距離から生まれる共感。バーという小空間で紡ぎ出される個と個の関係も、日台間の国際関係も、川嶋にとっては同じ世界観から出発している話なのではなかろうか。二者が対等な立場で対話をし、共感が生まれる時、その間に懸け橋は自然と築かれている。そして、自分の理想を語った川嶋のこの言葉は、実は21歳の彼に恩師の中山が示した教え、すなわち誰にも分け隔てなく温かく接し、相手の話にしっかりと耳を傾け、前向きな言葉で励ますこと、これらがコミュニケーションの基礎となるということにも気付かされるだろう。川嶋の中に中山は生きている。
「Bar Between」は開店から間もなく2年半を迎える。来客の9割は台湾の人だ。台湾を思う川嶋の気持ちに、地元の人たちもしっかりと応えてくれている。いつの間にか生前の中山の年齢も超えた。今日の川嶋の姿を一番喜んでくれているのは、草葉の陰の中山に違いない。
バナー写真=川嶋義明さん(松本崇撮影)

