美しい時間の記憶
東里駅は真新しい高架上へ移転。ただし場所は変わったが、駅が無くなった訳ではない。新駅へ引っ越しが完了した翌朝、変わらず勤務する藩さんや楊さんの姿を見た時は、東里駅に新たな1ページが加わったのだと素直に思った。
それから6年後の2013年、久しぶりに東里駅を訪ねた。旧線跡はサイクリングロードに再利用され、旧駅は休憩所を兼ねた観光拠点として生まれ変わっていた。駅舎内にはおいしいコーヒーが味わえるカフェも開店。廃止からしばらく廃虚のようになっていただけに、立派によみがえった姿を見ることができてうれしかった。
新駅舎に戻ると、駅の事務室に招かれた。駅長の黄習泉さんが大きなダイヤルロックの付いた重厚な金庫の扉を開いて、何か取り出してきた。それは白い封筒で、封筒からは見覚えのある冊子が出てきた。
旧駅の廃止後、僕は東里駅で撮影した写真を編集し、小さな写真集を手作りした。これを東里駅が移転した翌年、藩さんに手渡していたのだ。
ペーパーボンドの匂いが残る写真集のページを開くと、表紙の見返しに文字が書き込まれていた。当時の東里駅長、謝珍淡さんによる筆だった。
そこには「美好時光永久的記憶」と記されていた。「美しい時間の永久的な記憶」と日本語に訳せるだろうか?
写真集は僕が見てきた東里駅の一場面の集積だ。そういう意味では僕個人と東里駅の関係をつづったものとも言えるだろう。
東里駅では人々にお世話になってばかりだった。いつも「迷惑をかけているのではないだろうか」と恐縮した。ゆえに、それを美しい永久的な記憶と言ってくれる優しさに強く心を打たれた。13年間の折々に得た「美しい時間」が一気に胸に去来した。
写真は全て筆者提供




