「盛り上がり」への危機感を持つ選手たち

とはいえ、1987年の第1回大会以降、ティア1以外の国で行われるW杯は初めてであり、日本代表への声援だけでなく、W杯全体がどれだけ盛り上がるかを心配する声も聞こえてくる。実は、海外でのプレーを多く経験している日本の選手たちほど、この危機意識が強い。

選手たちは2011年のニュージーランド大会、2015年のイングランド大会を経験し、加えて海外でのテストマッチを戦っているなかで、強豪国の人々の生活に、ラグビーがどれだけ大きな意味を持っているか身をもって体感している。

これまでの開催国と同じような熱量、ホスピタリティを、果たして日本は持つことができるのだろうか? ラグビー文化が根づいていない日本で、海外の選手に満足を与えられるだろうか? 
そう心配する選手たちが多いのだ。

イングランド大会でウィングとして大活躍した山田章仁は、こう話す。
「前回のW杯の開催前、日本でラグビーに関心を示す人は一握りの人だけでしたよね。だから、『2019年の大会を日本で開催して大丈夫なんだろうか?』という不安を僕個人は持っていました。南アフリカに勝ち、グループステージで3勝したことで日本でも大きな注目を集めるようになりましたが、あれはスタートにしか過ぎませんから。今度の大会では、日本中でテレビをつければラグビーが取り上げられ、学校や職場でラグビーの話題が出るようになることが大切だと思っています」
そのためには日本が勝つことが1番の近道——それが山田の考えだ。

合宿でハードな練習をする日本代表候補の選手たち。2019年4月15日、千葉県浦安市(時事)
合宿でハードな練習をする日本代表候補の選手たち。2019年4月15日、千葉県浦安市(時事)

スコットランド戦が“クルーシャル・ゲーム”

2019年5月20日現在、世界ランキング11位の日本は、W杯ではプールAに属し、試合スケジュールと会場は次のようになっている。

  • 9月20日  ロシア(世界ランキング20位 東京)
  • 9月28日  アイルランド(世界ランキング3位 静岡)
  • 10月5日  サモア(世界ランキング17位 豊田)
  • 10月13日 スコットランド(世界ランキング7位 横浜)

前回大会では3勝1敗で南アフリカ、スコットランドと並びながら、ボーナスポイント(*1)の差で8強進出を逃しただけに、是が非でもエディー・ジャパンを超えたい。

そのためには、まずグループリーグで上位2カ国に入ることが必要だ。
格下のロシアと、前回大会で勝ったサモアに敗れることは許されない。2勝を確保したうえで、世界ランキングの上位国であるアイルランドとスコットランドのどちらかを崩すことができるかどうか。

特に大きな意味を持つのは、最終戦のスコットランド戦だろう。プールAではアイルランドが一歩リードしている。日本代表は、スコットランドと日本が同じ2勝1敗で最終戦を迎え、勝った方がアイルランドと共に8強進出、というシナリオを描いている。

今年4月、東京都内で取材に応じたエディーさんは、日本代表にとってのスコットランド戦をこのように表現した。
“Crucial game(クルーシャル・ゲーム)”
極めて重要な試合、とでも訳しておこうか。

歴史上、日本代表が国内においてこれほど「マスト・ウィン」の状況で戦うことはなかった。
試練ではある。
しかし、日本のラグビー文化を豊かなものとするには、スコットランド戦での勝利がどうしても必要だ。

私は海外で、ラグビーの熱に触れてきた。

テストマッチ当日、ロンドンのウォータールー駅からイングランド代表のジャージを着て試合の何時間も前に列車に乗り込んできた老若男女。
朝の登校時に楕円球を地面にバウンドさせ、自然と手元へ収めながら歩くニュージーランドの小学生たち。
2003年のW杯、オールブラックスが試合前に披露する「ハカ」に対抗して、国民が愛する「ワルツィング・マチルダ」を大合唱して対抗しようとしていたオーストラリア人たち。

W杯は選手だけでなく、ファンも共に戦う舞台なのだ。
9月20日の開幕戦までに、日本代表がどれだけ国民に期待を抱かせることが出来るのか。日本のラグビー関係者の腕の見せどころである。

(バナー写真:ニュージーランドとのテストマッチで、後半にトライを決めたヘンリージェイミー 時事)

(*1) ^ ラグビーW杯のボーナスポイント:トライ数が4以上=1ポイント(勝敗にかかわらず加算)。7点差以内での敗戦=1ポイント