原料原産地表示制度と「国産」志向
食料自給率38%の食料輸入大国である日本では、原産地表示に対する関心が高い。2016年に消費者庁が行なった、食品を買う際に表示のどの部分を参考にするかについてのアンケートでは、価格、消費期限または賞味期限、内容量に続いて、8割弱の消費者が原産国と原料原産地表示を気にしていると答えた。原産国を気にする背景には、やはり食品偽装の問題がある。現在も、輸入原料を国産と偽って加工・販売したというようなニュースをしばしば目にする。
「できれば国産のものを買いたい」という消費者の国産志向が、皮肉にも表示偽装をする側の動機になってしまっている場合もある。2021年、成長促進剤「ラクトパミン」を使用して育てられた米国産豚肉の輸入解禁が取り沙汰される台湾でも、国産志向の高まりが今後の消費者ニーズを形作っていくかもしれない。
日本で加工食品原材料の原産地表示が初めて義務づけられたのは、梅干しとらっきょう漬けだった。原料原産地表示の始まりは、漬物だったのだ。原材料を輸入しているのにもかかわらず、「紀州産」や「鳥取産」と銘打っていたことが社会問題になったためだった。
こうした流れに加え、環太平洋経済連携協定(TPP)の合意が後押しする形で、17年には国産作物の消費を促すことを目的に、国内で作られたすべての加工食品に対して原料原産地表示を行うことが義務づけられた。22年4月から完全施行される予定で、重量順で最も多い原料の原産地を表示しなければならない。
原材料は輸入品が普通だった日本の漬物
日本の漬物はそもそも輸入原料に頼ってきた。高度経済成長期のただ中にあった日本では、漬物産業も成長期を迎え、国内原料の調達だけでは賄(まかな)えず、供給が不安定になるという悩みを抱えていた。それを解消したのが、輸入原料だった。中でも、生姜と梅干しはその典型で、台湾産の塩蔵ショウガと梅干しが漬物輸入原料の嚆矢(こうし)となった。
輸入を開始した1960年代は、台湾からの輸入がダントツに多く、輸入量、金額共に全漬物原料輸入の過半数に及んだ。漬物原料の輸入は、60年代後半から70年代に急速に増加し、78年には10万トン超、金額にすると145億3469万円に達した。80年代には、日本で市販された生姜の漬物の90%、梅干しの70%は外国産だったいう話もあり(『総合食品』、80年3月号)、そう考えると日本の食卓には知らぬ間に、台湾生まれのご飯のお供たちが並んでいたことになる。
大量の生姜が漬物原料として必要になった背景には、脇役ながらさまざまな料理に添えられる、そんな生姜の漬物の性質がある。寿司に添えられるガリはもとより、カレー、たこ焼き、お好み焼き、焼きそば、牛丼などの料理が日常的に食べられるようになればなるほど、名脇役の出番が増えたのだ。牛丼チェーン店の吉野家が「はやい・うまい・やすい」をキャッチフレーズに、多店舗化に踏み出したのも60年代のことである。