19年目を迎えた台湾での研究生活

それから1年半後の2019年4月10日は、天文物理学にとって歴史的な1日となった。VLBIの技術を使って集められた膨大なデータを解析することにより、EHTは史上初めてM87巨大ブラックホールのシャドウの撮像に成功し、その画像を公表したのだ。東京、台北、上海、ワシントンDC、ブリュッセル、サンティアゴの世界6カ所で同時記者会見を開くと、このニュースは瞬く間に世界中を駆け巡った。SMA、ALMA、GLTといった新規計画の立ち上げを請け負い続けてきた松下も、この快挙の主要な功労者の一人だった。

「写真上でオレンジ色に見えるブラックホールの縁の部分は、高熱のプラズマを可視化したもの。ブラックホール境界面と共に、プラズマがブラックホールの中に落ち込んでいる成分と、磁場エネルギーによって外に向かって放出されている成分があると考えられています。GLTをグリーンランド山頂に移設して解像度を上げることで、これらを空間的に分解し、研究することが次の課題です」

国際共同研究プロジェクトEHTが史上初めて撮影に成功したブラックホールの映像と並ぶ松下聡樹氏
国際共同研究プロジェクトEHTが史上初めて撮影に成功したブラックホールの映像と並ぶ松下聡樹氏

松下の台湾での研究生活も19年目を迎えた。台湾の電波天文学の研究とそれを支える技術の両輪は、共に世界でもトップクラスだ。松下はより多くの台湾の人々にこの事実を知ってもらいたいと願っている。と同時に、台湾の税金を使っている研究者の一人として、自分たちの研究がどのように台湾の社会に還元できるのか、その仕組みも常に考え続けていきたいと言う。

「台湾のメーカーが観測装置の製作を10年、20年単位で続けてくれたことによって、自分たちの研究は支えられてきました。一方、台湾のメーカーにとっても、毎年1億台湾元(約4億円)単位のビジネスにつながっただけではなく、手元に技術が蓄積されたことで、メイド・イン・タイワンの底力を世界に示すことができました。自分たちの研究結果だけではなく、実はこのような形で台湾社会にその成果は還元されているのです」

松下たちのプロジェクトは、次にどんな驚きを私たちにもたらしてくれるのだろう。「苦労も楽しさ」と言い切る松下の天文談義の続編を、かつての天文少年だった筆者も楽しみにしている。(敬称略)

写真は全て松下聡樹氏提供。

本シリーズは今回で終了します。

バナー写真=松下聡樹氏の右側に見える小さな電波望遠鏡がSMA。ハワイ島のマウナケア山頂に位置する。これらのうち、2台が台湾製。