ニッポンの酒

知っていると100倍おいしい酒のABC(10)—温度で変わる日本酒の味—

文化

冷やしたり、温めたり、日本酒は温度によって味が変わる。夏には冷酒だけでなく、温かい酒も体に優しい。Joe君は今夜、マスターやかおりさんから温度によって味や呼び名が変わる酒のバリエーションを教えてもらっている。

店主 かおりさん、Joeさん、いらっしゃい。今日のお通しは、肉じゃがです。Joeさん、牛肉とジャガイモ、タマネギを甘辛く煮た日本の家庭の定番なんですよ。

かおり わあ、おいしそう。じゃあ、今夜は、お燗(かん)にしようかしら。

Joe オカン?それ、どんな日本酒なの?

かおり お酒の種類ではなくて、温めた日本酒のことよ。

Joe 冬にフランスで、風邪の予防になるんだって赤ワインにスパイスや果物が入った熱々のドリンクを飲ませてもらったことがあるけど、いまは夏だよ。

かおり ヴァン・ショー(VIN CHOUD)、英語でいうホットワインね。日本酒の場合は、熱々だけじゃなく、常温より少し高い程度の「ぬる燗」でも楽しむのよ。

Joe でも、暑いときに温かいお酒なんて気分じゃないよ。僕は冷酒がいいな。

店主 Joeさん、夏こそお燗酒が身体に良いと、江戸時代の学者(※1)が言っていたそうですよ。

温めたお酒は、冷房が効いた部屋や、夏バテした体にも優しくおいしいと、最近の若い人たちの間でも見直されているんです。

冷えた体に優しいお燗

店主 まず、純米酒を35度ぐらいの温度の「人肌燗(ひとはだかん)」に、温めてみました。このとっくりに1合(180ml)入っています。おちょこはお二人分、ご用意しました。

かおり(とっくりから、まずJoeのおちょこに注ぐ)はい、一献(いっこん)、どうぞ。

Joe じゃあ、かおりさんのお酒は僕が注いでいいかな。

かおり もちろんよ。ありがとう。

店主 そうやって、互いに注ぎ合うことを「差しつ、差されつ」というんですよ。

Joe 古い日本映画で、こういうシーンを見て憧れていたんだ。

かおり うわぁ、おいしい。身体に染み通っていく感じだわぁ。味の染みた煮物ともよく合うわ。

Joe うん、ソフトでいいね。体温ぐらいだから人肌燗と言うんだね。呼び名もすてきですね。

店主 2本目は、同じ純米酒をもう少し高い45度ぐらいの「上燗(じょうかん)」にしてみました。いかがですか?

Joe キリッとシャープな感じ!同じSAKEとは思えない。

かおり そうね。シャキッと背筋が伸びる感じがする。この温度もまた夏にもいいわね。

店主 他に30度では「日なた燗」、40度は「ぬる燗」、高めの温度では50度の「熱燗」、55度では「飛び切り燗」という言い方をします。

Joe 温度によって、それぞれ名前が変わるなんて驚くなあ。

店主 冷たいお酒は、一般的に「冷酒」と言いますが、約5度は「雪冷え(ゆきひえ)」、10度は「花冷え(はなひえ)」、15度は「涼冷え(すずひえ)」という呼び方もあります。

Joe 季節感が感じられてきれいな名前ですね!

店主 いろいろな温度で楽しめるのが、日本酒の特質とも言えます。お酒のタイプやそのときの気分で、温度を変えて楽しんでみてください。

お燗の仕方

かおり マスター、お店ではどんな方法でお燗をしていますか?

店主 うちではお燗専用の大鍋に湯が張ってあります。日本酒を注いだ「ちろり」と呼ぶスズ製の柄のついた容器を、鍋の縁にかけて湯に浸して、ゆっくり温度を上げ、適温になったら陶製のとっくりに移します。このように容器ごと湯に入れて、加熱することを「湯煎(ゆせん)」と呼びます。昔の居酒屋には、「お燗番」といって、適温にお燗をつける名人がいたものです。ちろりがないご家庭なら、鍋にとっくりが7分目ぐらいまでつかる湯を入れ、沸騰させたら火を止めて、酒を入れたとっくりごと湯に漬ける湯煎でもいいでしょう。もっと簡単なのは、陶器など耐熱性のあるとっくりに注いで、電子レンジで温める方法でしょうね。ただし、とっくりの上と下で温度差ができてしまうので、別のとっくりを準備しておいて、移し替えた方がいいと思います。

かおり それなら手間がかからないわ。週末に、私の部屋でSAKEパーティーしましょうか。うちの冷蔵庫には数本、日本酒を冷やしてあるから冷酒も飲めるわよ。

Joe 誘ってくれるの?

かおり リーさんやチャンさん、マリアさん、ホセさんも呼んで、大勢で楽しみましょう。

Joe(小声で) なんだ2人きりじゃないのか……。

かおり え?

Joe 何でもないよ、それはいいね。持ち寄りパーティーにしよう。週末が楽しみだ!

バナーイラスト:ちろりで人肌の温度に温めた酒をとっくりに注ぐ店主。お燗酒をおちょこで飲むかおりさんと冷酒をグラスのおちょこで飲むJoe君

バナー・文中イラスト=Moeko

(※1) ^ 貝原益軒(1630 -1714)『養生訓』

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