大坂弘道は、木工芸の分野における人間国宝の一人だ。彼の生み出す作品は、時空を超えた不思議な造形感覚に溢れていて、観る者をいつも驚かせる。
時空を超えた木工芸術
人間国宝とは、正式には「重要無形文化財保持者」と言う。工芸と芸能の分野において歴史的または芸術的に価値が高い無形文化財の中で、特に重要な技術、技能を体得している人を文化庁が人間国宝として認定するものだ。
大坂弘道は1997年、木工芸家として人間国宝に認定された。作品づくりに大きな影響を与えたのが東大寺正倉院宝物の復元模造だ。正倉院は8世紀に建てられた木造の倉庫で、仏具、武器、装飾品、書物等、当時の文化の粋が9000点余り収められている。中にはシルクロードを通じてローマやペルシアから伝わったものもある。大坂が復元模造を担当した木工品も、西方から伝来した意匠などの影響が強くみられる。
正倉院宝物復元に7年
正倉院宝物の復元模造を委嘱された大坂は、まず、細密な木画技法による木工作品「紫檀木画箱(したんもくがはこ)」の模造に7年の歳月をかけて取り組んだ。最初の5年間を、宝物を再現するのに必要な木材、金属、膠(にかわ)などの調査にかけたという。
木画とは、象牙(ぞうげ)、角、木、金属などを用いて文様を作り、これを木地に嵌入(かんにゅう)して装飾効果を上げる技法だ。中でも「紫檀木画箱」は、細密な幾何文で知られており、幅1センチの文様を描くのに複数の素材からなる細片を30枚も重ねる必要がある。大坂は復元模造の過程で、古代の木工職人の技術をよみがえらせることに成功した。
微細な美へのこだわり
また、「紫檀木画箱」の木画技法に錫(すず)が使用されていることを発見。これを参考に薄く削った部材に文様を糸鋸(いとのこ)で透かし彫りし、その隙間に帯状の錫などの薄板を嵌め込む「嵌荘(がんそう)」という技術を確立した。自身の創作でもこの技術を駆使し、黒柿に蘇芳染をほどこした美しい地肌に生える繊細な文様は、大坂作品の大きな魅力となっている。
大坂は微細な美にこだわるため、作品は年に2点ほどしか作らない。日本の伝統工芸という枠に収まりきれない珠玉の芸術作品を紹介する。


















