『堀切の花菖蒲』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第8回

歌川広重「名所江戸百景」では第56景となる『堀切の花菖蒲(ほりきりのはなしょうぶ)』。前景を大胆に配した広重独特の構図で、ファンに人気の高い作品である。

梅雨時期を彩る菖蒲の名所・堀切

堀切の菖蒲園の始まりは、江戸時代後期に小高伊左衛門という百姓が各地の花菖蒲を集めて開園したのがきっかけとされている。しかし、綾瀬川近くの湿地という土地柄、もともと花菖蒲の栽培に向いたため、室町時代から既に培養されていたという説もあるようだ。

いずれにせよ広重の時代には花菖蒲の名所であり、切り絵図(古地図)にも「菖蒲の名所」と記されている。花の咲く時期には、江戸の町から小旅行感覚で多くの人が訪れたであろう。広重の絵にも花菖蒲が咲き誇る広大な園内に、見物人たちの姿が描かれている。

この写真は2014年の撮影で、初期の作品である。最近は、現在のありのままの姿を残したいので絞り込んで撮るようにしているが、この頃は絞りを開いて背景をぼかしている。今の堀切菖蒲園は、広重の絵のように広大ではない。しかし、空を入れるようにローアングルでカメラを構えると、ファインダー越しに広がりのある広重時代の菖蒲園を思い描くことができた。

●スポット情報
堀切菖蒲園

江戸時代の「小高園」によって花菖蒲の名所として知られた堀切には、明治時代に続々と菖蒲園が誕生した。その中の「堀切園」が、現在の葛飾区指定史跡「堀切菖蒲園」となっている。現在は京成本線の駅名にも使用され、商店街などがある地区の通称となっている。花菖蒲の見頃は6月中旬で、園内では約2006000株が咲き誇る。毎年6月上旬から20日頃まで「葛飾菖蒲まつり」が開催され、にぎわいを見せる。

  • 住所:東京都葛飾区堀切2-19-1 
  • 入園料:無料
  • 営業時間:午前9時~午後5時 ※「葛飾菖蒲まつり」期間は午前8時~午後6
  • アクセス:京成本線「堀切菖蒲園」より徒歩10

浮世写真家 喜千也「名所江戸百景」――広重目線で眺めた東京の今
「名所江戸百景」は、ゴッホやモネなどに影響を与たことで知られる浮世絵師・歌川広重(うたがわ・ひろしげ)の傑作シリーズ。 安政3年(1856年)から5年にかけて、最晩年の広重が四季折々の江戸の風景を描いた。大胆な構図、高所からの見下ろしたような鳥瞰(ちょうかん)、鮮やかな色彩などを用いて生み出された独創的な絵は、世界的に高い評価を得ている。その名所の数々を、浮世絵と同じ場所、同じ季節、同じアングルで、現代の東京として切り取ろうと試みているのが、浮世写真家を名乗る喜千也氏。この連載では、彼のアート作品と古地図の知識、江戸雑学によって、東京と江戸の名所を巡って行く。

『亀戸天神境内』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第1回
『日本橋江戸ばし』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第2回

『王子音無川堰棣世俗大瀧ト唱』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第3回
『上野清水堂不忍ノ池』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第4回
『蒲田の梅園』:浮世写真家喜千也の「名所江戸百景」第5回
『水道橋駿河臺』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第6回
『綾瀬川鐘か渕』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第7回
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『市中繁栄七夕祭』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第10回
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