日本のインテリジェンス:組織的強化へ高市首相の野望
政治・外交- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
スパイ防止法の制定をにらむ
インテリジェンス改革の第1弾として、高市政権は政府による情報活動の司令塔となる国家情報会議と国家情報局を7月31日に発足させた。これまで警察庁や外務省、防衛省、公安調査庁などが個別に行ってきた情報収集・分析機能を国家情報局に統合し、首相を議長とする国家情報会議を通じて効率的に政府の意思決定を支える仕組みだ。
これを受けて開かれた有識者の初会合では、高市首相が「政府情報活動の中長期的な推進策をまとめて公表することが必要」(※1)と言明した。また、最近の国際安保環境を踏まえて「外国による不当な干渉の防止策の強化」を訴え、有識者会議は当面、国家情報戦略とスパイ防止法制の2点に絞って重点的に議論していくことを申し合わせた。
米大統領選へのロシア介入疑惑など、近年は従来型のスパイ活動に加えて、SNSなどで他国の世論を操作・誘導しようとする情報戦が激化しており、戦時と平時の境界があいまいにされつつある。高市政権はこうした情勢に対処するため、インテリジェンス改革第2弾として中長期的な情報戦略を来春をめどにまとめ、その上でスパイ行為の防止に向けた法整備を進めることにしている。
「DIMET」と情報防衛力
欧米社会では、早くから「外交力(Diplomacy)」、「情報力(Intelligence)」、「軍事力(Military)」、「経済力(Economy)」、「技術力(Technology)」の頭文字を合わせた「DIMET」が総合的な国力をあらわす要素とされてきた。この中でも昨今は、情報力が際立って注目されている。
年々巧妙化する外国のスパイや情報工作に対応するには、情報力の抜本的強化が必要だ。自民党が8月にまとめた政策提言では、「情報防衛力の強化」として(1)外国代理人の登録などの義務化、(2)外国勢力による不正な干渉への刑事罰──を含む「外国干渉防止法」(仮)の制定を盛り込んでいる(※2)。
欧米、カナダ、オーストラリアなど中国やロシアのスパイ・情報干渉に手を焼く諸国も、2018年頃から法整備を進めている。外国政府のために政治工作を行う個人・組織に依頼主や活動内容の開示を求める法律が既に施行されている。
中でも、世界規模で機密情報の共有枠組みを持つ米英豪など英語圏5カ国(ファイブアイズ)は、日本政府のインテリジェンス改革を歓迎し、支援や協力の手を差し伸べている。高市政権と有識者会議は、これらの国々からの情報提供も得ながら、改革を前に進めていく方針だ。
対外情報庁の設置も
インテリジェンス改革では、人を通じて対外情報を収集する能力(ヒューミント)の強化も挙げられている。自民党と日本維新の会の連立政権合意(昨年10月)では、「2027年度末までに独立した対外情報庁(仮称)を創設する」と明記され、同庁創設のための準備も進められそうだ。
ただ、ヒューミント能力を担う人材の確保と育成には長い期間と訓練が必要になる。自民党の提言では、英国や豪州の秘密情報部を参考例に、対外情報庁を外務大臣の監督下で独立した外局とする案が「有力な選択肢」ともされているが、独立機関としての活動が特定の政策上の都合に左右されないように、自律性や主体性を確保することも重要になる。
情報機能の強化では、情報の対外発信力も問われる。9月の米中首脳会談では、「米中は第二次大戦で同盟国だった」という中国側の主張にトランプ米大統領が同調したため、日本政府を大いに慌てさせた。大戦当時の米国の盟友は中華民国(現在の台湾)であり、明らかな事実誤認である。
「抗日同盟」を喧伝(けんでん)して日米を離間させ、米中の連帯をうたうのは、対日認知戦での中国外交の常とう手段と言える。これに対し、日本は日々の情報活動の中でどう対抗し、反撃していくのか。外交と情報の即応力の強化が求められている。
バナー写真:インテリジェンス機能の強化に関する有識者会議で発言する高市早苗首相(手前)=2026年9月28日、首相官邸(時事)
(※1) ^ 9月28日、首相官邸HP 「インテリジェンス機能の強化に関する有識者会議」
(※2) ^ 8月5日、自由民主党インテリジェンス戦略本部、『我が国の「情報防衛力」の強化に向けて──開かれた社会を、隠れた工作から守る』