知っていると100倍おいしい酒のABC(18)―酒蔵見学に参加する―
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(見学ツアー参加者は、会議室に集合している)
Joe 今日が待ち遠しかったよ。天気も良くて、サイコーだね。
かおり そうね、本当に旅日和で気持ちいいわね。私も楽しみにしていたの。ところで、今朝はオレンジや納豆は食べて来てないよね?
Joe 言われた通りオレンジは食べていないし、納豆は嫌いだから食べないけど、なぜだめなの?
かおり 日本酒は、麹菌や酵母など微生物の働きで造られることは知っているでしょう?かんきつの皮にも微生物が付いていると言われているし、納豆には繁殖力の強い納豆菌が含まれているので、酒蔵で働く人たちは酒造りが始まると、これらの食品は口にしないそうよ。最近ではあまり気にしない人もいるらしいけど、見学のマナーとして知っておいた方がいいと思うわ。
Joe お酒造りに影響を与える別の菌は、持ち込まないようにということだね。
かおり その通り。ところでJoe君、酒蔵の中は冷え込むから温かい服装で来てね、とアドバイスしたけど、薄着で大丈夫?
Joe 大丈夫、問題ないよ。爪も短く切って、いつも以上に清潔には気を配ったつもりだよ。かおりさんは、今日はカジュアルな服装だね。
かおり 酒蔵の中は滑りやすい場所もあるから、動きやすいスタイルにしたの。お化粧もしてこなかったの。お酒を造る人は、化粧品の香りを気にすると聞いたことがあるわ。
Joe あ、何か甘い、いい匂いがしてきたね。
かおり お米を蒸している匂いだわ、きっと。
Joe わあ!楽しみだ!
酒蔵スタッフ 皆さん、ようこそいらっしゃいました。今日は実際にお酒を造っている現場に入っていただきます。大きな機械があり、足元にホースがある場所もあります。近寄ると作業の邪魔になり、危険な場所もあります。私の指示に従ってくださいね。髪の毛が落ちないよう、ヘアネットをお配りしますので、頭にかぶってください。では、酒蔵に入ります。
酒蔵スタッフ 入り口で手を洗った後、紙タオルで拭いてから、消毒用アルコールをスプレーしてくださいね。靴は脱いで、こちらの消毒済みの長靴に履き替えてください。
Joe 衛生管理に気を配っているのに、入り口の扉は開いたままです。なぜ食品工場のように、外界と遮断したクリーンルームにはしないのですか。
酒蔵のスタッフ 微生物の力を借りてお酒を造るので、完全な無菌状態にはしません。だからこそ、必要のない菌は蔵には入れないように気を配っているんです。さあ、米が蒸し上がりましたよ。この甑(こしき)という大型の蒸し器を使って、1時間蒸しています。
Joe 周りが見えないぐらいすごい湯気だね。あ、湯気の中に人がいる!
かおり 人が中に入ってスコップで蒸し米を掘り出しているのね。自動化している酒蔵を見学したことはあるけど、ここでは人の力で作業をしているのね。
酒蔵スタッフ 掘り出した蒸し米の一部は、米麹を造るために麹室へ運び、残りは仕込みのためにタンクに投入します。麹造りと、もろみの発酵と、二つの用途に使われるのです。
Joe かごに入れたお米を肩に担いで、走っている。アスリートみたいだね。
酒蔵スタッフ 麹室は、繊細に菌の管理をしないといけない場所なので、残念ですが、皆さんには入っていただけません。もう一つの蒸し米の行き場所、タンクのある仕込み室をご案内します。
Joe うわぁ、寒い。冷蔵庫の中みたいだ。かおりさんが言ったとおりだ。(ブルブル……)
かおり ね、言ったでしょ。携帯カイロを持ってきたから使うといいわ。
酒蔵スタッフ この仕込み室は5℃に管理されています。低い温度でゆっくり発酵させるために、部屋全体を空調管理しています。
かおり 働く人たちには過酷ね。でもみんな表情が生き生きしている。
Joe うん、誇りを持って働いているんだね。この部屋にもいい香りがする。バナナのような甘い匂いだ。
酒蔵スタッフ 発酵中のもろみの香りです。使う酵母によって違う香りがします。
Joe タンクの近くで匂いを確かめたいな。はしごに登らせてもらえないのかな。
かおり 絶対にダメ!発酵中のタンクには二酸化炭素が充満しているの。気を失って、タンクの中に落ちてしまう危険もあるのよ。
酒蔵スタッフ 発酵が落ち着いた段階で、この搾り機にもろみを入れると、酒かすと日本酒に分かれて流れ出てきます。
Joe 搾りたてのお酒はキラキラと輝いている!飲んでみたいなあ。
酒蔵のスタッフ このお酒はまだ酒税を納めておりませんので、あいにく飲んでいただけないのです。でも、昨日搾ったばかりのお酒はすでに瓶詰めしていますので、併設しているレストランでお楽しみください。今日はありがとうございました。
(レストランで搾りたての酒と料理を試しながら)
Joe フレッシュだね!わずかに発泡していて最高にうまいよ。かおりさん、とっても勉強になったよ。楽しかったなあ。
かおり 想像していたよりたくさん若い人たちが働いていて、気持ち良かったわね。
Joe 同感だよ、実は僕、酒蔵で働きながら酒造りを学んでみようと思うんだ。いずれは自分の国に帰って、SAKEブルワリーを立ち上げたいという夢を持つようになったんだけど、ますますその気持ちが強くなったよ。
かおり すてきね。
Joe その時、かおりさんも手伝ってくれるとうれしいな。
かおり えっ?
Joe 真剣に付き合ってもらいたいんだ。どうかな。
かおり ありがとう。うれしいわ。
Joe 良かった。これからも一緒に酒を楽しもうね。
*酒蔵見学を受け入れていない酒蔵もありますし、予約制の場合が多いので、ホームページ(HP)などで確認してください。時期は一年中受け付けている蔵もありますが、酒造りを見たければ晩秋の11月ぐらいから3月ごろまでがおすすめです。マナーを守って楽しみましょう。
バナー・文中イラスト=moeko
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